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たまにはこんな読書もいかが?①『手袋を買いに【日本語/英語版】 』きいろいとり文庫
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手袋を買いに_イメージ画_by速水ねるこ

たまにはこんな読書もいかが?①『手袋を買いに【日本語/英語版】 』きいろいとり文庫

コラム 吉田成志

Writer’s Nest(ライターズ・ネスト)代表WEBライターの吉田です。

2020年4月初頭の現在、各種学校の休校やアミューズメント施設の営業休止などで、退屈な思いをされている老若男女の多いことでしょう。

そんな今だからこそ、「たまにはこんな読書もいかが?」というシリーズを執筆してみようと思い立ちました。
初回となる今回は、新美南吉氏の名作絵本『手袋を買いに』を紹介します。

それも、単なる本の紹介でなく、せっかくライターズ・ネストのサイトにアクセスしていただいているのだから、

ライター(言葉を使うことを生業にしている)ならではの目線

で、

手袋を買いに 【日本語/英語版】 きいろいとり文庫

という書籍を紹介していきます。

(本記事の画像は、チームメンバーの速水ねるこさんに書いてもらいました。)

絵本の読み聞かせに助けられた私の国語力…!?




ところで私は、Writer’s NestというWEBライター・クリエイターチームを結成した今に至るまでに、

宅地建物取引士(宅建士)
マンション管理士(マン管)
消防設備士
ファイナンシャル・プランナー

などの資格を取得してきました。

これらの資格がカバーする専門分野は、不動産・法律・資産設計・建物設備…という感じです。

でも、大学では外国語学部にて北欧文学を学んでおりました。

不動産や法律に携わるようなことになろうとは思いもしなかったのですが、そのあたりのお話はまたの機会に。

そもそも私は、超絶文系人間なのです。

数学は中学くらいまでは「苦手だなぁ」くらいだったものが、高校にもなると「単位取得すらも危ぶまれる」レベルに突入。

でも国語だけは小さいころからなぜか成績が良かった。

「勉強したことないけど、わかる。というか勉強のやり方がわからない。」

という感覚です。

事実、高校生の時は副担任(数学教師)に

「お前、単位取れそうか?」

と半笑いで心配されるレベルだったにも関わらず、国語は基本的にクラスでトップ、みたいな感じで。

「勉強したことないし、勉強のやり方がわからないけどなぜか点数がとれる」

という感覚です。

しかし、私はこれを「私が生まれながらにして国語に関する天賦の才を持っていた」という自慢話のために書いているのではありません。

それよりも、自分がこんな感覚に恵まれているのは、

・幼少期に母親が毎晩読み聞かせをしてくれていた

ということが大きく起因しているはずだ、というところにフォーカスを当てたいのです。

絵本や児童文学ばかりだったとは思いますが、毎晩根気強く読み聞かせしてもらい、子どもなりに想像力や理解力を働かせていたことが、言語感覚を養うに至ったのではないかと。

ちなみに、国語の中でも現代文や説明文の成績はよかったんですけど、古文や漢文は取り立てて良かったわけではなかったです。
(古文や漢文は英語みたいなもので、単語や文法の勉強をしないと理解できないためです)

英語も勉強しないといけないから面倒だし、別に好きでも嫌いでもなく。
でも、大学入試をなんとかこなさないといけなくなったとき、ふいに英作文がツボにはまりました。

ここでいう英作文とは「日本語のちょっとした文章が与えられて、それをうまく英訳する」というものです。

これは日本語を一語一語、辞書的な意味で的確に逐語訳してもあまり点数はもらえなません。
うまく本旨や文脈をくみ取って英訳するという出題形式なわけです。

それがまた、

「なんか小難しい表現だけど、結局こんなことが言いたいんでしょう?」

という感じでおおざっぱに英語に当てはめれば当てはめるほど点数につながるのが面白くて、気づけば受験英語の読み書きが得意になっていました。

結局これも英語というよりは国語の問題であって、難しい英文を書かなくて済むように、日本語をまず簡単な日本語に置き換えていくという作業が面白かっただけという感じはあります。

そして、そこに関しては本当に特別な勉強などをした覚えがないのに、なぜだか難なくできるようになっていたのです。

※そこからいろいろな紆余曲折を経ましたが、最終的に「やっぱり日本語は面白い!」というところに戻り、翻訳や日本語の書き方について研究してみた、という流れです。

 

つまるところ、統計をとったわけではないので、あくまで個人的な体験からくる主張になりますが、

絵本や童話を小さい子供に読み聞かせることにはきっと大きな意味があるはずだと信じています。

外出の自粛などで窮屈な思いをせざるを得ない今だからこそ、改めてお子様に読み聞かせてみることや、一緒に本を読むという時間を持ってみても損はないと思います。

 

手袋を買いに【日本語/英語版】 きいろいとり文庫

前置きが長くなりましたが、今回紹介するのは

『手袋を買いに 【日本語/英語版】』 きいろいとり文庫

です。

『手袋を買いに』:あらすじ

雪の降り積もったある朝、冷たい雪に触れた子ぎつねの手が赤くはれているのを見かねた母ぎつね。
母ぎつねは、そんな子ぎつねのために手袋を買ってあげようと町に出かけますが…。

 

まず、今回の長い前置きはなぜ必要だったのかというと、

この一冊に新美南吉氏の名作『手袋を買いに』の日本語版と英語版が両方収録されている

という点が挙げられます。

日本語文自体は、平易な表記やちょっとした言葉遣いなどの調整が加えられているだけで、恐らくほぼ新美市の書いた原文のままだと思います。

ちなみに、本作の内容に関する考察を始めるとこれまた非常に長くなる&専門的になりすぎるために、今回は割愛します。
(というのも、本作『手袋を買いに』には二種類の異なった結末が用意されていたという話があるためです。)

難しいことを抜きにして、内容について強いていうならば、

母ぎつねが子ぎつねの片手を取り、人間の手に変える。

「この、人間に変えた方の手を(帽子屋さんの戸口に)入れて、『この手にちょうど合う手ぶくろをください』って言うんだよ。
 決して、きつねの方の手を入れてはいけないよ」

と言われていたにも関わらず、間違えてきつねのままの手を帽子屋に差し出してしまうシーン。(本文11ページ~17ページ)

このあたりの流れが非常にかわいらしい。

 

原文と英訳を一緒に読む楽しみ…

『手袋を買いに』⇒『Buying mittens』

 

新美南吉氏はもちろん日本人であり、『手袋を買いに』は日本語で書かれた童話です。

そのため、英語版は日本語の原文を直接英訳したものだと思われます。

※ヨーロッパ系の童話や文学作品は、一度原文から英語やドイツ語に訳されたものを経て日本語に訳されているというパターンがあります。
翻訳を一度経るごとに、どうしてもその原文の持つ細かなニュアンスは変化したり削ぎ落されたりするものなので、できるだけ原文からの訳が良いと個人的には思います。

そのタイトルは、『手袋を買いに』⇒『Buying mittens』と英訳されています。

英文法的には、

・「Buy(買う)の動名詞としてのBuying(買うこと)」
・「mittens(手袋の複数形)→手袋というもの(総称)」

という感じなのかなと思います。

素直に和訳するならば、

『手袋を買うこと』

ですね。寓話的なニュアンスもあり、非常に端的でわかりやすいと思います。

でもここで一つの疑問。

“『手袋を買いに』って、どういうこと?”

手袋を買いに「行く」ことは間違いありません。

しかし、絵本のタイトルとして『手袋を買いに行く』とすると、やっぱりなんだか広がりが失われるというか、具体的すぎるような気がします。

そんなところを新美氏も悩んだのでしょうか。

それとも感覚的にズバリ『手袋を買いに』で決まり!となったのでしょうか。

もはやこのあたりは本人に直接インタビューしたいところなんですけれども、新美氏は1943年に29歳の若さで亡くなっているためにそれも叶いません。

(正直、文学や詩について研究を重ねていくと、「もう本人に質問しようや!」という気によくなってしまうあたり、私には文学研究者としての適性があまりなかったのかもしれません笑)

『お母ちゃん、お手てがつめたい。ちんちんする。』

⇒『Mama, my hands are cold.They sting.』

本文7ページ(英語版:35ページ)、初めてみる雪にテンションが上がり、外で遊んで帰ってきた子ぎつねが、母ぎつねに手が冷たいと訴えるシーンです。

『お母ちゃん、お手てがつめたい。ちんちんする。』

英訳⇒『Mama, my hands are cold.They sting.』

という形です。これがまた良い英訳(名訳)だなと感じました。

 

「Mama, my hands are cold.」

⇒逐語訳すると、

「お母さん、私の手たち(両手)が冷たいです。」

となります。まさにその通り。

この次が名訳です。

「They sting.」

⇒彼らは刺す(トゲがある)。

つまり、「お手てがちんちんする」という原文を

「(雪によって)手が何かに刺されているように冷たい」

という風に本旨をつかみ、なおかつ子ぎつねらしい表現で、簡潔な英単語2つのみを使って擬人的に表現しているのです。

「母さんぎつねは、子ぎつねの手をにぎりました。」

⇒「The mother fox tightly held the baby fox’s hand.」

もうひとついきましょう。

本文11ページ(英語版は39ページ)、母ぎつねが子ぎつねの片手を人間の手に返信させるシーンです。

人間の街にやってきたものの、過去に人間に追い回された記憶をもつ母さんぎつねは、その不安から足が進まなくなってしまいます。
そして、子ぎつねの手をにぎって、子ぎつね自身でその手にフィットする手袋をください、と言いに行かせる決断をしました。

本文では、

「母さんぎつねは、子ぎつねの手をにぎりました。」⇒「The mother fox tightly held the baby fox’s hand.」

です。

英文を逐語訳すれば、

「その母ぎつねは、その子ぎつねの手を”しっかりと”にぎりました。」

…そう、原文を逐語訳するだけでは対応しない、tightly(しっかりと)という副詞が英文には追記されているのです。

子ぎつねを一人で行かせる不安感・罪悪感などがいろいろとないまぜになっている精神状態であったため、
母ぎつねは子ぎつねの手をしっかりとにぎっていたのではないでしょうか。

ストーリーの流れをつかみ、しっかりと文意を英文にも反映させようとした結果の名訳です。

※しかも面白いことに、青空文庫版の『手袋を買いに』では、”母ぎつねが子ぎつねの手を握る”瞬間の描写は存在しません…!

 

じっくり言葉に向き合う読書も、たまにはいかが?




今回は書評ではなく、ライターだからこそ、というよりも私個人のちょっと変わった目線から、勝手に『手袋を買いに【日本語/英語版】 』きいろいとり文庫を紹介させていただきました。

私はkindle unlimitedのヘビーユーザーなのですが、たまたまこの「きいろいとり文庫」シリーズをunlimitedで読めると知りました。

単純に絵本としても味わいが深いという点で名作である『手袋を買いに』ですが、英語版も収録されていることで、まさに”一粒で二度おいしい”一冊です。

お子様に読み聞かせたあと、原文と英語版の違いをじっくり比べてみることには面白い気づきがあります。

基本的に平易な英語ですし、あまり大それた解釈もありませんので、英語をすっかり忘れてしまった方も、英語を思い出しながら触れることができます。

このように、日本語・英語に限らず、じっくりと言葉に向き合うような読書をしてみることも、たまにはいかがでしょうか。

 

ちなみに、「きいろいとり文庫」シリーズには他にもいろいろな童話があります。

興味がわいたので少しお調べさせていただいたところ、

「大人も子どもも楽しめる童話オーディオブックを作ろう(http://yellow-bird.info/)」

というコンセプトで展開されているシリーズのようです。

そして、この『手袋を買いに』はその1作目とのこと。

せっかくの絵本なのに、今回はその素敵な挿絵について触れることができませんでしたので、

この記事を読んで興味を持たれた方は、公式サイトをご覧になるとか、kindleで購入するなりして是非一度この絵本に触れてみていただけると嬉しいです。

 

 

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